訓練中に事故に遭ったのに公務災害申請の話が全く進まない、などお悩みはありませんか。
当弁護団の取り組みにより、徒手格闘訓練中の死亡事故について国の安全配慮義務違反を認めた裁判例があります。
ご相談例
- 新格闘訓で手の指を骨折したけれど、自衛隊病院ではきちんと治療してもら えず、「固定したから大丈夫」と言ってすぐ訓練に復帰させられた。ちゃんと治る か心配です。
- 隊員の業務事故は、近くに自衛隊病院があれば、通常同病院にかかります。しかし、自衛隊病院の医師は自衛隊員(「医官」と言います)であり、業務事故の件数を減らし、訓練など通常業務に早期に復帰させるという自衛隊の意向が働く可能性があります。また、自衛隊病院は、2009年に一般市民に開放しましたが、その理由に、患者増による医官の技術向上が挙げられていた経緯があります。
医療水準も、診療科目によっては民間の病院の方が高いと一般に言われています。そこで、隊員や家族からは、自衛隊病院では十分な治療がされない、「まだ完治していないのに」「民間の病院に通いたい」等の不満か多いのです。
業務上の傷病であっても、隊員にはよりよい治療を受ける権利があります。部隊から自衛隊病院に行くように言われても、あるいはいったん自衛隊病院に行っても、自らの選択で民間病院に行くことができます。但し、隊員は部隊への報告が義務づけられており、怠ると規律違反に問われるので注意して下さい。
民間病院にかかる際、上官が状況把握のために同行を求め、医師の話を一緒に聞くことを求められることがあります。この場合、断ることは可能であり、特に婦人科や精神科など重要なプライバシーに関わる場合には拒否した方がよいでしょう(医師も患者に自由に話せなく可能性があるので)。
- 自衛隊は労働環境としては過酷な面があると覚悟はしています。しかし、 公務員なのだから、何かあったときの公務災害の保障は大丈夫ですよね?
- 実は、自衛隊員の業務事故による負傷について、公務災害が認定される比率は非常に低いです。その理由は、民間の労災事故と違い、自衛隊が治療費を全額負担し、防衛省共済組合などからの援助もあるため、隊内の手続を煩わせる公務災害認定手続はなるべくしないという「不文律」があるからです。
しかし、将来後遺症が残るような場合の業務起因性や傷病内容の認定、重大な過失が明らかな加害者や部隊に責任追及(慰謝料請求など)するときなどは、公務災害認定を得ていることが役に立ちます。
自衛隊では、公務災害認定手続が民間の労災認定などと違って面倒で、時間もかかるのが一般的です(後述のQ4)。しかし、ご自分の健康や今後の人生にとって大切なことなので、簡単に諦めずに弁護団にご相談下さい。
- 公務災害認定手続はどういう手順で行なわれるのですか。
- 下記の図は、陸上自衛隊の場合です。労災における労働基準監督署のような第三者機関の関与がなく、本人の所属する中隊長・業務隊長の報告・調査から始まり、全て部隊内で処理されます。認定権者は基本的に方面総監になりますが、精神疾患などの特別案件は幕僚長にまで上げられます。
私たち弁護団は、第三者性(公平性)と専門性の確保、請求受理の拡大と迅速処理が必要であると提言しています。
- 自衛隊に対する損害賠償請求は、いつまでに、どう行なえばよいですか。
- 事実の解明と被害救済、再発防止のために、裁判で自衛隊の責任を問いたいというご相談があります。
この場合、国を被告にして国家賠償請求訴訟(国賠法1条)を行ないます。被害を与えた具体的な過失行為と損害を主張立証していきます。この場合の消滅時効は、被害者が損害及び加害者を知ってから3年(民法724条)ですが、生命又は身体を害する場合は5年(同法の2)となります。
これに対し、損害賠償責任の追及は、民法415条の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づいてもできます。これが最初に提起されたのは最高裁判決昭和50.2.25でした。事案は、自衛隊員が車両整備工場で車両整備中に同僚隊員の運転する大型自動車の後車輪で轢かれて死亡したため、両親が国を被告にしましたが、不法行為法上の3年の消滅時効期間がすでに経過しており国の責任を問うことが難しかったため、安全配慮義務(隊員の生命・健康に危険が生じないように注意し、物的・人的環境を整備すべき国の義務)違反に基づく損害賠償請求権(消滅時効は10年)を主張したもので、最高裁はこれを認めました。
3年以上経ったと簡単に諦めないで、弁護士に相談されるとよいです。
- 加害者個人に対して損害賠償請求をすることはできますか。
- 加害者の違法行為の態様が悪質だったり、性暴力など加害者個人に向けた被害感情が強い場合、加害者自身に責任をとらせたい思うのも当然です。
この問題については、古い最高裁判例(最判昭和30年4月19日)があり、「国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって,公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく,また公務員個人もその責任を負うものではない」と否定しています。
しかし、この古い判例には、公務員に故意又は重大な過失が認められる場合には個人責任を認めるべきといった批判的な学説も少なくなく、実際に公務員個人の責任を認めた判決も出てきています。
防衛大いじめ訴訟(福岡地裁・同高裁)は、加害上級生と国を被告に提訴し、結果的に両方に賠償責任を認めさせる判決をかちとっています。
とはいえ、公務員個人の責任も問う訴訟は,民法や行政法の専門的な知識が必要になりますので、弁護士によくご相談して下さい。
裁判例
- 徒手格闘訓練死裁判(「命の雫」事件)
- 札幌地方裁判所(平成25年3月29日・労働判例1083号61頁)
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