業務の過重によりうつ病を発症したが部隊が取り合ってくれない、などお悩みはありませんか。
業務の過重や部隊内でのパワーハラスメントなどによりうつ病などの精神疾患を発症する例が多数あります。
ご相談例
- 上官のパワハラと夜遅くまでの業務過重で夜眠れず、家族も心配しています。精神科に行くことには躊躇があり、どうしたらいいでしょうか。
- 命じられた仕事はやりきるという責任感の一方で、精神科にかかると成績評価が下がり出世や給与に影響を及ぼすことを心配されていると推察します。
キャパシティを超えた精神的・肉体的な負荷により身心に変調をきたし、適応障害やうつ病を発症することは、誰にも起こりうることです。ご自身にとってもご家族にとっても、あなたの健康が一番大事で何事にも代えがたいものです。労働者の健康を守ること(安全配慮義務)は使用者の責任です。
無理せず病院に行って診てもらって下さい。その際は、最近の長時間勤務の実態やその強度を説明する資料を渡すとよいです。上官のハラスメントもできるだけ具体的に書いて持参して下さい。なぜなら、お医者さんに、限られた時間でできるだけ情報を提供して的確な診断をしてもらうためです。
自衛隊病院にも精神科がありますが、他の病院にも行き(セカンドオピニオン)、あなたが通いやすく、信頼できる病院にすることが大事です(自衛隊病院については、「訓練中の事故など」のQ1を参照)。
精神疾患について公務災害を認定させることは簡単でなく、治癒まで時間がかかることが多いです。早い段階で弁護団に相談して対処することを勧めます。
- 自衛官の息子が隊舎内で自殺しました。先輩のいじめがあったようですが、部隊は原因不明だと言っています。どうしたらよいですか。
- 自衛官としての公務によりうつ病などの精神疾患を発病し、それが原因で自殺したと認められれば、公務災害として補償が得られます。また、国家賠償請求により国に損害賠償を求めることができます。
いずれにせよ、生前に息子さんの身に何があったのか、それが自殺にまで至ったのはなぜか(「業務起因性」と言います)、その事実と資料をできるだけ集めることが必要です。自衛隊は、「服務態勢」として隊員を24時間管理し指導しています(「イジメ・パワハラ」のQ3とQ4を参照)。従って、息子さんの生活状況や自殺に繋がるエピソ-ド、事故状況に関する情報はもっばら部隊にあるのですから、遠慮なぐ遺品の引渡と情報提供、経緯の説明を求めて下さい。
特に、部屋の現況を確認し、スマホを確保することが大事です。部隊がスマホの提出を求めてきたら、中身を確認し保存し終えるまで渡さない方がよいです。
遺族が、部隊が行なった調査報告書の開示を要求すると、「情報公開請求手続で取得してくれ」と言われます。しかし、情報公開請求は防衛省本省の対応となり、地元部隊が無責任になりかねません。加えて、遺族による自殺者本人の情報開示請求は、第三者による請求と同じ扱いとなり非開示部分が多くなります。
従って、情報収集は、早い段階で弁護士に相談され、部隊との交渉や関係者からの聞き取り、情報開示請求、公務災害認定請求、証拠保全手続などを組み合わせて進めることが大事です。
- 米軍では兵士の「コンバット・ストレス」や「戦争トラウマ」が深刻だと聞きます。米軍の実態を教えて頂くとともに、自衛隊の実情を教えて下さい。
- 米退役軍人省は、戦闘行為に従事した米兵(コンバット・ストレス)の自殺者の実態について、1999年から統計を取り始め、2012年までに21州で2万7000人が自殺し、さらに他29州で3万4000人と推定しています。現在、自殺者は1日20人・1年7000人を超え、イラク・アフガニスタン戦争の犠牲者6700人を超えています。また、PTSDは60万人以上いると言われています。
これに対して、オバマ政権は2015年に帰還兵自殺防止法を成立させ、トランプ政権は2019年3月に自殺防止対策委員会を設置しました。退役軍人省は自殺防止を最優先課題にしていると言います(2019年9月10日北海道新聞の報道)。
戦争には始まりと終わりがあります。しかし、戦争準備の過酷な訓練、従軍と戦闘、帰還後のトラウマなど、兵士にとっては1つに繋がった人生そのものです。日本の自衛隊は、「軍隊でない」という政府解釈の建前から、「コンバット・ストレス」や「戦争トラウマ」について研究や対策が進んでいないのが現状です。
なお、この問題を詳しくお知りになりたい方は、『コンバット・ストレスと戦争トラウマ-その歴史と南ス-ダンPKO派遣第10次隊の実態』(働くもののいのちと健康・100号)をご参照下さい。
裁判例
- 徒手格闘訓練死裁判(「命の雫」事件)
- 札幌地方裁判所(平成25年3月29日・労働判例1083号61頁)
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