「服務指導」を理由に先輩からいじめられている、部隊に訴えても何も変わらない、と悩んでいませんか。
いじめを苦にした自殺について国の責任を認めた裁判例、いじめを行った防衛大学校の学生の責任を認めた裁判例があります。
ご相談例
- いじめ、パワハラは自衛隊員として耐えないといけないですか?
- 人格を傷つけるいじめやハラスメントは明らかな人権侵害です。あなたは、自衛隊員である前に一人の人間であり、自衛隊員であるがゆえにいじめやパワハラに耐えなければならないということはありません。また、職場でパワハラが行なわれていれば、同僚たちも傷つき嫌な思いをし、職場環境を悪化させます。
いじめやハラスメントが許されないことは、民主主義の国では当然のことであり、日本でも遅ればせながら2020年にパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が成立しました。軍人も一般市民と変わりません。ドイツでは、兵員法(第6条)でわざわざ「兵士はすべての他の市民と同様の権利を有する」と定めています。
- 息子が寮の相部屋の先輩にいじめられているというので、上官に直談判すると「服務指導です」と言われました。寮生活の時間は自由ではないのですか。
- 自衛隊のいじめ・パワハラの原因の1つは、「公私の区別」がないことです。隊員は、入隊と同時に生活隊舎(寮)に入って集団生活(連帯責任)を送り、仕事から寮生活まで24時間が部隊の中にあり、 上官や先輩から「服務指導」を受けます。
「服務指導」は、隊員を教育訓練し、職務に専念させるために、勤務時間外の生活の管理、すなわち外出・外泊の許可、交遊関係から心情把握、私的な悩みにまで及びます。
この閉鎖的な生活空間で、今まで経験したことのない人間関係の軋轢や葛藤に遭遇したり、いじめやパワハラを受けたりすることが多いのです。
学校で「ゆとり教育」が導入されたとき、自衛隊でも個室化を進めたことがありましたが、今では逆戻りして(自殺防止が理由の1つとされています)、隣同士をカ-テンで仕切ることも認められていません。
- 自衛隊の「服務指導」とは何ですか。一般の公務員と何がどう違うのですか。
- 自衛隊員の生活について『服務ハンドブック(幹部隊員用・服務参考資料)』は、「自衛隊の規律の特性で一番重要な点は、規律の基礎が戦闘にあるということである。戦闘の規律から発して、すべて平時の規律が作られていることが、一般の社会の規律とは異なっている」として、「自覚に基づく積極的な服従の習性を育成する」と説明しています。
このような自衛隊員の勤務と生活の全体を「服務態勢」と言い、図表化すると以下の図のようになります(『服務ハンドブック(幹部隊員用・服務参考資料)』より)。企業や一般官庁のように所定内労働(拘束時間)と所定外労働(自由時間)という区別がありません。
私たち弁護団は、24時間拘束・管理して「服従の習性を育成する」というのは、個人の自由と自律に立脚する個人主義(憲法13条)に反しており、改めるべきであると提言しています。
- いじめやパワハラと思うことも、「躾(しつけ)」の範囲内だと言われました。自衛隊の「躾(しつけ)」とは何ですか。
- 前述した「服務指導」とも重なる言葉です。私ども弁護団が取り組んだ空自セクハラ裁判(札幌地裁2010年7月29日判決)の原告が新入隊員教育で配布された冊子「躾(しつけ)」によると、「形から入る「しつけ」が習い性となるとき、個人の徳操を形成する」とされ、「しつけ教育の過程を心理的にみるならば個人の勝手気ままな心のコントロ-ルとみることが出来る。易きにながれる我が儘な心を押さえ理性の指向する任務に邁進せねばならぬ自衛隊精神涵養の主要手段は「しつけ」教育に存すると言っても過言ではない」としています。
そして次のように言います。「今の若者は社会常識にうとく、礼儀作法をわきまえないと言う批判を聞く。これは何も若者に限ったことでなく、日本の社会全般にわたって共通の問題である。かつて東洋の君主国と言われたわが国は、太平洋戦争後封建制度の否定とともに古来の美風も崩壊して、それに変わるべき新しい規律は誤れる自由主義の名目の下にいまだに固定化していない」「昔の日本人には、環境や階級の差こそあれ厳しい礼儀作法のしきたりがあって、社会の秩序を保ち、人間関係を円滑にする上で重要な役割を果たしていた。」
私たち弁護団は、公務員を法律ではなく「習い性」や「躾」で動かすことは、憲法13条の個人の尊重や憲法27条の労働条件法定主義に反し、間違っていると批判しています。
- 自衛隊の暴力やパワハラに対する懲戒処分は、軽すぎます。なぜですか?
- 自衛隊は、パワハラの増加と処分が甘いという批判を受け、2020年1月31日の防衛大臣通達「暴力等を伴う違反行為に関する懲戒処分等の基準」で、懲戒の処分基準を重くする見直しを行いました。
例えば、パワハラで全治1カ月以上の重症を負わせた場合、従来の「16日以上の停職」を、原則「免職」とし最低でも「6か月以上の停職」へと大幅に引き上げました。
そもそも全治1カ月以上の重症を負わせても免職がなかったことに驚きですが、基準が変わっても実際に重く処分されるかは別です。なぜならば、同通達は、他方で、重症を負わせても「被害者の態度が反抗的」「思わず感情的になって」行なった場合には免職しないなどの処分の軽減を認めているからです。
多くの隊員は、どうせ上官や幹部はこれが適用されて、特権的地位が守られるのだろうと疑っています。今後どう具体的に適用されるかが重要です。
- 上司から暴言などのパワハラを受けています。上司の上官に相談しても取り合わず、同僚も助けてくれません。何かよい方法はありませんか。
- 『苦情処理申立』という制度があり、「隊員は、自衛隊において自己の受けた取扱が不法又は不法であると考えるときは、上官にその旨を申し出て不法又は不当な取扱いの是正その他の苦情の救済を求める」ことができます。
書面でも口頭でも申し立てることができ、部隊は苦情処理委員会を設置して原則60日以内に調査し、原則30日以内に苦情処理をし、結果を文書で通知し、不服な場合は再度の苦情申立てができることを保障しています。
ところが、苦情処理申立は、国家公務員の人事院に相当する制度なのですが、法律ではなく政令の定めにすぎず、隊員にその存在と利用が周知されていません。また、自分の所属組織に申し出ることになりますので、加害者が所属組織の上官や同僚であることが多いため、調査の第三者性や処理の公平性の確保に問題があります。
私たち弁護団は、限界があるとはいえ同制度を積極的に活用することを勧めます。そのうえで、弁護士が代理人として介入することや、事案の重大性や必要性により法的手続をとったりします。
裁判例
- 海上自衛隊さわぎり事件
- 福岡高等裁判所(平成20年8月25日・判例時報2032号52頁)
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- 海上自衛隊たちかぜ事件
- 東京高等裁判所(平成26年4月23日・判例時報2231号34頁)
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- 防衛大学校いじめ訴訟・地裁判決
- 福岡地方裁判所(平成31年2月5日・判例秘書搭載)
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- 防衛大学校いじめ訴訟・高裁判決
- 福岡高等裁判所(令和2年12月9日・判例時報2515号42号)
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